「一流の頭脳」(アンダース・ハンセン 著、御舩由美子訳)の感想
タイトルに惹かれる
この本のタイトルはかなり魅力的だと感じるのは私だけでしょうか?
一流の頭脳とだけしか書かれていないタイトルですが、本の帯にはたくさんの言葉が書かれているため、どんな内容なのかが推測できました。
科学的なエビデンス(証拠)に基づいて、如何に私たちのパフォーマンスを強化していくのか、ということについて書かれています。
帯には「超・強化」と書かれていましたが、それほどすごい効果が期待できるとなると読むしかありませんね。
著者のアンダース・ハンセン(Anders Hansen)氏は、精神科医でスウェーデンのストックホルム出身です。
医学的な論文を読むと、必ず出てくるカロリンスカ研究所(カロリンスカ医科大学)にて医学を学んで、さらにはストックホルム商科大学にて企業経営を修めているそうです。
現在は精神科病院に上級医師として勤務するかたわら、多数の記事の執筆を行っているとのことです。
以前に「スマホ脳」についての感想をお話しさせていただきましたが、あの本もアンダース・ハンセン氏が著者です。
著者名が若干違うのですが、「一流の頭脳」では名前が英語読みになっているからだと考えられます。
母国のスウェーデン語では、おそらくアンデシュ・ハンセンという名前なのだと思われます。
本書のメインテーマ
本書のメインテーマは、なんといっても「運動」です。
特に有酸素運動の有効性が書かれているのが特徴です。
一流の頭脳というタイトルの本なのに、なぜ運動がメインのテーマになっているのかというと、運動が脳に及ぼす好影響は思った以上にすごく、一流の頭脳を手に入れるためには運動なしでは、到底不可能と考えられるからです。
脳は、今でも研究が不十分だと考えられていて、まだまだ分からないことがたくさんあるそうです。
そのため、どんどん新しいことが発見され続けているのが現状です。
脳は変わらないというようなことが以前は言われていましたが、今では脳の中は絶えず新しい細胞が生まれており、お互いにつながったり、離れたりしているということがわかっています。
そして、脳は変わるということが分かった今、如何に脳の機能を高めるかという研究も進んでおり、その結果、戦略的に運動することで脳の機能が改善するということが報告されています。
また、脳トレのような座って問題を解くようなタイプのものは、そのようは問題を解く能力は高くなるのですが、脳の機能の改善にはあまりつながらない、ということも判明しています。
運動の方が、脳トレよりも脳に良い影響を与えるのは、おそらく私たち人類が歩きながら食糧を探していたことに由来しているようです。
身体を動かすことに適していなければ、食料をとることができないため、そのようになっていると解説されていました。
また、著者自身も医師のため、ご自身の身体を使って運動の効果をかなり研究されているようです。
様々な研究や著者の経験から、身体をもっと動かせば、私たちの脳は今よりもさらに効率的に働いてくれるということを伝えることが本書の目的となっています。
なぜ脳の機能が改善するのか?
では、なぜ運動、特に有酸素運動が脳に良い影響を与えて、脳の機能を改善してくれるのでしょうか?
本書ではその理由について、かなり詳しく書かれています。
まず、私たちの脳の良し悪しはどのようにして決まっているのでしょうか?
中には、脳が大きければ大きいほど脳の機能が良く、頭もよいのではないかと考えている方がいらっしゃるかもしれません
しかし、脳の大きさが頭の良し悪し、脳の機能の良さを作っているのではありません。
頭の良し悪しは、脳の各部分がいかにスムーズに連結するのか、ということによると本書では解説されています。
機能ネットワークとも呼ばれるプログラムが脳の中には存在し、脳の各領域がしっかりと連携しているほど、脳の働きは活発でスムーズになります。
各領域とは前頭葉や頭頂葉など、脳は様々な領域がありますが、それらが密接に連携しあうことこそ重要なのですね。
そして、この脳内の連携は生まれつきのものかと思いきや、そのほとんどは生活習慣によって決まっているということです。
それは何を意味するのかというと、生活習慣を変えることで、脳の機能を改善することができるのであり、そのような脳の機能を神経可塑性と呼ばれます。
この神経可塑性があるから、脳の機能は生活習慣によって改善できるのですが、生活習慣の中で脳の機能の改善に最も効果があるのが運動なのです。
その理由はいくつかあるのですが、その一つがGABAの作用を抑えることにあります。
GABAはCMなどでチョコレートに含まれる成分でストレスなどに効果があると宣伝されることがあります。
GABAは人間の脳内にも存在し、緊張やストレスなどをやわらげて、脳の興奮を鎮める働きがあると言われていますので、それは正しいということですね。
また、GABAには睡眠の質を高めたり、血圧が高めの方の血圧を下げる機能があることが報告されていますので、私たちの身体にはとても良い影響を与えてくれるものです。
しかし、脳内のGABAは変化を嫌うため、脳の変化も抑制しようとする作用もあると言われています。
脳の変化という意味ではマイナスの効果があるこのGABAを、運動をすることによって、脳を変えまいとする効果を抑えてくれるというのです。
ちなみに、GABAの働きが全くなくなってしまうわけではなく、運動によってGABAを放出するニューロンも生まれるということなので、GABAの良い効果はそのまま、脳の可塑性を邪魔するような効果は取り除くというすごい効果があるようなのです。
運動以外にはこのような効果はないようなので、運動が脳を変化させるのもうなずけますね。
また、運動をすることで血流が良くなるため、脳への血流も当然増えることになり、それが脳に良い影響を与えることはもちろん、脳内の老廃物も効果的に除去することができるのもよい影響を与える理由となります。
ストレスの脳への悪影響も抑える
ストレスは、私たちの身体に様々な悪影響を与えることは常識になっていますが、脳にも当然悪影響を与えます。
強いストレスを受けたり、長期間のストレスを受けると、脳が萎縮することがわかっています。
萎縮してしまうと、当然脳の各部分の連携もうまくいかなくなるため、脳の機能が下がってしまうことになります。
しかし、運動を行うこと自体ストレス解消になりますし、さらにストレスを上手に処理できる体質になります。
それはなぜかというと、運動自体はストレスを身体にかける行為ですので、ストレスホルモンが上昇します。
しかし、運動が終わるとストレスホルモンは速やかに下がっていき、運動を始める前よりも低いレベルに下がります。
そして、運動を習慣化することで、ストレスを感じた時でも、ストレスホルモンがそれほど上昇しなくなるため、以前よりも落ち着いて対処することができます。
運動によって、ストレスを感じる状況を練習して、本番に備えるような状況になっているのでしょうね。
ですから、運動はストレスが脳に与える悪影響を取り除くような作用もあるということになります。
まとめ
一流の頭脳というのはいったいどのようなものなのか、ということに興味があり読んでみたのですが、得られたものは本当に大きいですね。
なぜなら、誰もが一流の頭脳を獲得するチャンスがあるということが分かったからです。
運動が脳に与える好影響は、もちろん今回お話ししたものだけではなく、本書ではさらにたくさん、そして詳細に解説されています。
脳の機能が向上するということは、単純に勉強ができるようになる、というだけではなく、人間関係を良いものにしたり、家族との時間を充実したものにしたり、良い仕事をしたりするためにも当然必要です。
そのためには、ぜひとも運動を毎日の習慣にすべきだということを、本書から学ぶことができました。