「スタンフォードの脳外科医が教わった人生の扉を開く最強のマジック」(ジェームズ・ドゥティ 著)の感想
身体と心、脳と心の一致
スタンフォードの脳外科医が書いた本ですので、それだけで私には興味を惹かれるものがありました。
この本で一貫しているテーマのように感じることは、身体と心、脳と心を一致させるということです。
言葉で書くと本当に簡単なことのように感じますが、実際は一致している方って少ないように感じます。
本書では序盤からこのことに触れられています。
人生にはどうしようもないことがたくさんあるわ。とくに子供のときは、すべてが思い通りになるなんて考えられないわよね。なんでも変えられるなんてね。でも、からだを思い通りにできれば、心も思いどおりになるの。たいしたことじゃないように聞こえるかもしれないけど、それがすごく力になるの。すべてが変わるのよ。
(57ページ)
確かに子供のころは、親や大人の言うことが絶対のような気がして、自分ができることなど本当に小さなことだと思っていました。
自分の思い通りにすべてを変えることなどできない、という思いが強く、それはある程度は今の自分の気持ちの中に残っているものです。
しかし、身体と心が思い通りにできれば、すごい力になるというのです。
どういうことなのでしょうか?
「望んだものが手に入る」なんて言うと、気分を上げてくれるニューエイジのスローガンみたいだが、これは神経科学と脳可塑性の強力な例でもある。意識を向けることには大きな力がある。それは本当に脳を変え、灰白質の中の学習や成果や夢の実現を助ける部分を強化する。
(147ページ)
目標や夢を意識するということ、この重要性がここで述べられているのですが、それは脳がそれに合わせて変わっていくからのようです。
目標や夢を明確にするということが、よく強調されますよね。
それは、そこに至るためのプロセスを明確にするという意味もありますが、脳がその目標や夢を実現させるために、可塑性を使って変化していき、達成しやすいように成長していくからなのです。
脳が強化されるということが、あまり実感としてわかないかもしれませんが、これはスタンフォードの脳外科医が書いた本だということを忘れてはいけません。
脳のエキスパートが書いているということですので、私たちの脳にはかなり大きな可能性が秘められているということが科学的にわかっているということです。
成功法則の本などでは、思い浮かべたことは実現するということがよく言われますが、もちろん思い浮かべただけですべてが実現するわけがありません。
それを実現するためには、そこに至るプロセス、過程が重要であり、そのプロセスに沿って努力する必要は当然あります。
しかし、ここで述べられていることは、実現させるために脳が変わり、実現を助けてくれる働きがあるということです。
私たちの脳はいつまでも変化し続けるということが、いろんな研究でわかってきていますので、始めるのに遅すぎることはない、ということは本当のようですね。
そして、脳が変化することで、目標への最短距離を通ることができるかもしれません。
心と脳を一致させるために
本書で学んだことは、本当にたくさんあるのですが、他者との関係についても、本書からとても大きなことが学べたと思っています。
私たちはどうしても自分の利益を考えてしまうため、他者を犠牲にしてしまうこともあります。
競争社会だから、他者を蹴散らして上に登っていく、という考えの方が多いのも事実ですよね。
私たちは、どこかで自分さえ良ければよい、という意識が小さいながらも持っているものであり、現代社会ではなおさら強くなっているかもしれません。
頭は、人間を区別し、一人ひとりが別の人間だということにしたがる。自分と他人をくらべ、違いを見出し、限られた資源の取り分を確保する方法を教えてくれる。でも、心は人をつなげ、分かち合おうとする。人間には違いがなく、結局僕たちは、みんな同じなのだと教えてくれる。心がそれ自体が知性を持つ。そこから学ぶことができれば、僕たちは何かを与えることによってのみ、何かを持ち続けることができるとわかる。幸せになりたければ、他人を幸せにするしかない。愛が欲しければ、愛を与えなければいけない。よろこびが欲しければ、他人をよろこばせなければならない。ゆるしを得るには許さなければならない。平和がほしければ、自分の周りに平和を生み出さなければならない。
(246ページ)
頭では、如何に相手を出し抜くかということを考えている人が多いですが、思いやりの心、などの言葉があるように、心は他者とのつながりを大切にするものですよね。
頭、脳で考えていることと心を一つにすることが、本書のテーマになっていると最初にお話しさせていただいたのですが、それは心で考えていることが脳と一致することで行動が変わるということです。
心で考えていることを実践すれば、他者の幸せのために行動することができるようになります。
ルースが僕に与えてくれた訓練は、身体の中の二つの頭脳、つまり頭と心の両方の脳をひとつにすることを助けてくれるものだった。それなのに僕は何十年も心の知性を無視してきた。僕を貧困から救い出し、成功へと導き、価値を与えてくれたのは心だった。脳は多くを知っている。だけど、心と一緒になった時、脳ははるかに多くを知ることができる。
(247ページ)
頭と心なんて違わない、常に同じじゃないか、と感じませんか?
私は本書を読む前には、その二つの違いについてはあまり意識したことがありませんでした。
しかし、この二つは違った行動をとろうとしているかもしれない、と本書を読んで思いました。
こんな状況を考えてみましょう。
電車に乗っているときに、前に老人や身体が不自由な方がいると、自分の席を譲ることができない方がいますね。
その場合、心では譲ることが正しいということはわかっていると思いますが、頭では譲ろうとしない、という状況になっているようです。
席を譲るという簡単なことであっても、心と脳が一致していないということになります。
日常生活の複雑な行動の中では、おそらくもっといろんなところで心と脳が一致していないことがあるはずです。
そういった場面でも心と脳が一致した行動をとることができれば、私たちはもっと自分の目標や夢を実現させる能力を得ることができるのかもしれませんね。
そんなことはできっこない、という考えは頭が考えることであり、心はできると考えていることが多いですからね。
ルースが教えてくれたマジックのグランドフィナーレは、人生をよりよい方向へ帰るためには、他者の人生を助けるしかない、という究極のレッスンだった。
(249ページ)
心と脳の一致は、他者との関係をより良い物に変えてくことができるため、人生をより良い方向に変えることができます。
しかし、私はそこに自己犠牲のような考えは必要ない、と思います。
なぜなら、自分自身も他者と同じように大切であり、他者と同じように思いやりをもって接することが心と脳の一致だからです。
まとめ
脳外科医によって書かれた本ですので、なんとなく難しい内容なのではないか、と最初は思っていました。
しかし、内容はかなり哲学的なものですが、科学的な面もしっかりと書かれているため、うさん臭い感じもありません。
少なくとも私は感じませんでした。
心と脳というのは、区別されるべきものではないと思っていましたが、本書を読んでこの二つの一致こそ、人生をよりよくするための方法なのだということを知ることができました。