「売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放」(中村朱美 著)を読んだ感想
売上を減らす飲食店?
著者の中村さんは、ランチのみ営業している佰食屋を経営されている方です。
仲村さんがどのように、佰食屋を成功させていったのか、ということが書かれている本になるのですが、おおよそ飲食店を成功させるために必要とされることの反対を行っているという印象です。
YouTubeにもいくつかの動画がアップされています。
佰食屋については、こう書かれています。
- ランチのみの国産牛ステーキ丼専門店
- どれだけ売れても、1日100食限定
- インセンティブは、早く売り切れば早く帰れる
- 営業わずか3時間半、11時から14時半
- 飲食店でも、残業ゼロ
- なのに従業員の給料は、百貨店並み
飲食店としては理想的な状況を作り出していますね。
これを実現させた理念として、著者はこう記しています。
どれだけ儲かったとしても、「これ以上は売らない」「これ以上は働かない。」あらかじめ決めた業務量を、時間内でしっかりこなし、最大限の成果を挙げる。そして残りの時間(人生)を自分の好きなように使う、ということ。
ここで勘違いしてはいけないのですが、長時間働くことが絶対に悪ではないということです。
長時間働くことに生きがいを感じる、という人の場合は長時間労働を行っても、それ自体が活力となるため、全く問題ないものです。
仕事がうまくいくことが人生に活力を与える、それが家族サービスの向上につながる、という方も多いでしょうし、仕事が人生であり家族を持たない、という考え方の人もいらっしゃるでしょう。
そのような方々に、働くな!ということは当然言えないことです。
しかし、そうでない人がいるのが世の中というものです。
長時間働かないで、自分がやりたいことを充実させたい、育児や介護で働きたくても働けない、という人をどうすべきか、という考えも必要になってきています。
特に少子高齢化が進む日本では、労働の仕方の変革を考えなければならない状況になっているはず。
しかしながら世間では、まだまだ長時間労働だけが「善」というような考えを持つ人が多く、短い時間働きたい、好きな時間に働きたい、という考えを「悪」と決めつける風潮があるように感じます。
短い時間しか働けない、という人がいる現実でそれを悪と考えることはすべきではない、という考えが浸透していけば、すべての労働環境が改善していくような気が私はします。
飲食店のイメージを変える
著者の中村さんは、飲食業界に新しいイメージを吹き込んでいる方です。
飲食店というと、勤務時間が長い、土日は休むことができない、ギリギリの人数でお店を回しているために鬼のように忙しい、というイメージが付きまとっているような気がします。
そんな飲食業であっても、従業員満足度を高めることを考えたのが著者です。
長時間労働は当たり前、慢性的な人手不足。でも、どうせやるなら、自分が嫌いなことを従業員にはさせない会社を作りたい。
そこで出来上がったのが「佰食屋」というわけです。
1日に販売する数を決めて、「早く売り切ることができたら早く帰れる」となったら、みんな無理なく働けるのではないか、と思ったのです。
1日に販売する数を決めて、売り切ってしまったら閉店して早く帰る、というのは飲食業界ではあまりないですよね。
こだわりのラーメン屋さんがスープがなくなり次第終了というようなお店はありますが、それ以外ではあまりないような気がします。
売上をぎりぎりまで減らす
しかし、販売する数を決めるとしても、その数を極限まで売るというような従来の経営方法ならば、あまり意味がなくなってしまいます。
著者が目指したところは、売上を極限にまで上げることではありませんでした。
佰食屋は、ステーキ丼を売るお店ですが、その名の通り100食限定の飲食店。
人気もあるため、200食300食と売上を伸ばせばよい、と考えますが著者はそれをしていません。
佰食屋は、お客様のことだけを大切にするのではありません。いちばん大切なのは、「従業員のみんな」です。
仕事が終わって帰るとき、外が明るいと、それだけでなんだか嬉しい気持ちになりませんか?そんな気持ちを、従業員のみんなにも味わってほしい。
だから、佰食屋が出したい答えは、「売上をギリギリまで減らそう」でした。
明るい時間に帰れるということは、いつも家族そろって夕食を食べることができる、という状況を作り出すことができます。
そんな会社を著者は目指し、それを実現させています。
著者はこうも話しています。
就業時間も、働き方も、自分で決める。やる仕事も、役職も、そして、仕事の後の時間をなにに使うかも、自分が決められる。
それこそが、納得のいく幸せな人生だと思うのです。
これは、著者の幸せの考え方ですので、他の幸せがあるということを否定するものではありません。
しかし、著者の指摘するこの幸せを求めることが、本当に難しい世の中になっているのを感じます。
それを実現させてくれる企業がある、ということが一つの希望にもなっていくのかもしれませんね。
従業員満足度が顧客満足度を上げる
少し前までは顧客満足度だけが取り上げられる傾向がありましたね。
大手携帯会社が顧客満足度NO.1という謳い文句でCMをバンバン流していたことを思い出します。
しかし、顧客満足度を高めるために、従業員は蔑ろにされてしまっては、十分な顧客サービスを届けることができない、ということが明らかになっています。
顧客満足度を高める前に高めなければならないものがあり、それが従業員満足度です。
従業員満足度が高い職場は、従業員の生産性や顧客対応へのモチベーションが高い傾向にあるということが、様々な研究で報告されています。
これは政府が進めている働き方改革を実行するうえでも、重要な要素になっているようで、ブラック企業に対する取り締まりのようなものも、以前よりも強化されているようです。
また、ソーシャルネットワークの時代ですので、従業員満足度が低いとすぐにそれがネットで流れてしまい、業績を悪化させることも多く、従業員満足度はますます重要になってきています。
もちろん、仕事をさぼり放題、という状況を作り出すということではなく、如何に業績を伸ばしつつ、従業員満足度を高めていくか、ということを考える必要があります。
中村さんはこう述べています。
わたしは経営者として、従業員みんなに、「もっと売上を上げなければ」というマインドから解放されてほしい、と思っています。
会社や経営者のご機嫌とりをするのではなく、もっと楽しく働けるようになるため、お客様に喜んでいただくために、できることに取り組んでもらいたいのです。
ここから読み取れることは、楽しく働くことでお客様に喜んでもらえる環境を作ることであり、それを作ることができれば、全員が満足できるということでしょう。
もちろん経営者である中村さんも喜びを感じるはずです。
そのような職場環境を生み出した佰食屋という飲食店がある、ということが投じる影響力というものは決して小さくはない、と本書を読み進めていく中で感じました。
まとめ
このような本を読むと、すでに破綻しているビジネスモデル、というような感想を言う人がいますが、それはとても悲しいことではないでしょうか?
実際に行動することができた人の考えは、必ず学ぶべきことがたくさんあります。
働き方は一つではなく、いろんな形があり、それを実現させてあげたいと行動している人から学べないことはないはずです。