「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン著 久山葉子訳)
身体の機能と環境
世界的ベストセラーということで、さらに「スマホ脳」という気になるタイトルですので、期待して読んでみました。
この本の帯には、
スティーブ・ジョブズはわが子になぜiPadを触らせなかったのか?
というコメントが書かれているのですが、これを聞いてどう思いますか?
私の正直な感想は大変失礼ながら、
「わが子に触らせないものを、開発して多くの人に売るなんて最低だな。」
でした。
本当に触らせなかったのか、ということは確認していないので真実なのかわかりませんが、やはり少し納得できない部分があります。
そして、本書では
絶対的な影響力を持つIT起業のトップたち。その中でスティーブ・ジョブズが極端な例だったわけではない。ビル・ゲイツは子供が14歳になるまでスマホは持たせなかったと話す。
(82ページ)
スマホの影響については、IT業界では知られた事実だったのでしょうか?
著者はこう主張しています。
今あなたが手にしている本は、人間の脳はデジタル社会に適応していないという内容だ
(7ページ)
ということで、私たちの身体が祖先から受け継がれ、どのような基本設定になっているのか、ということが述べられており、そこからスマホの弊害が詳しく解説されています。
身体の基本設計について
私たちの身体は、人類の歴史の中から生まれたものですので、祖先から受け継いだ機能というべきものがあります。
そして、昔の環境には必要不可欠だった機能が、現代社会ではマイナスに働いているものがいくつもあります。
その最たるものがストレスということになると思われ、多くのページで解説されています。
負の感情は脅威に結びつくことが多かった。そして脅威には即座に対処しなければいけない。
(中略)
強いストレスや心配事があると、それ以外のことを考えられなくなるのはこれが原因だ。
(39ページ)
今とは比べ物にならないほど過酷だったと思われる、昔に住んでいた私たちの祖先は、危険を察知するとすぐに行動しなければ、命に関わる状況を何度も経験したことは、おそらく誰もが想像できると思います。
肉食の猛獣などに出会ったときなどは、その最もわかりやすい状況でしょう。
身体にストレスをかけて、すぐに行動できるということが、命を守るためにとても重要な反応だったのですね。
しかし、このストレス反応は、猛獣から逃げることができれば収まるもので、比較的短期で終わるものです。
しかし、現代社会のストレスはすぐに終わるものは、かなり少なくて長期間感じるストレスの方が多くなっています。
長期にわたってストレスホルモンの量が増えていると、脳はちゃんと機能しなくなる。常に「闘争か逃走か」という局面に立たされていると、闘争と逃走以外のことをすべて放棄してしまうのだ。
(45ページ)
人間関係や、仕事などで長期間ストレスを感じている状況は、猛獣と出くわしているような状況ほど強烈ではありませんが、確実にストレスホルモンが増えているのですから、脳が正常に機能していない可能性があるわけですね。
スマホのある生活の弊害
そして、ストレスと同じように現代社会には適合していない機能があります。
それはスマホを使うということと、私たちの身体の反応に見ることができるようです。
スマホ、特にSNSは私たちの想像しないところで、着信の連絡が来たりしますよね。
着信が来ると、当然どんな内容が来たのか確認したくなります。
そのような状況では、私たちの脳はドーパミンを出すため、スマホを確認するということが快適な好意になるのです。
それもまた、私たちが祖先から受け継いでいる身体の設定にあるようです。
周囲の環境を理解するほど、生き延びられる可能性が高まる。その結果、自然は人間に新しい情報を探そうとする本能を与えた。
(72ページ)
弱肉強食の過酷な環境を生きている場合は、新しい情報を得ることは安全に生活するために必要不可欠なもののはず。
それを探そうとすることは、生命の維持に関わることですから、それを面倒がっていては長生きできません。
ですから、新しい情報を探そうとすることを本能とすることで、人類は命をつないできたのですね。
さて、スマホのことを考えてみると、新しい情報を得るためにはこれほど便利なものはありませんし、SNSでランダムにお知らせが来るわけですから、私たちにとってはこれほど素晴らしいアイテムはありません。
そのため、いつもいつもスマホを確認してしまうわけです。
スマホを使いすぎる弊害
スマホを使いすぎる弊害については、たくさん紹介されているため、その中で気になったものをご紹介したいと思います。
一番深刻なのは、やはり集中力の欠如になるでしょう。
スマホを使うと、マルチタスクになってしまうため、集中力が欠如するということが言われています。
仕事の途中でメールのチェックをしたり、SNSを送ったりするということは、ちょっとしたことのように思えますが、脳にとってはかなり大変な作業のようです。
脳には切り替え時間が必要で、さっきまでやっていた作業に残っている状態を専門用語で注意残余(attention residue)と呼ぶ
(89ページ)
この注意残余があるために、集中しているものから、注意を外して別の作業を行い、元の作業に戻って100%集中できるようにするためには、数分かかることがあるという研究報告もあります。
ですから、スマホで頻繁に集中力が乱されると、全く集中できないという状況に陥るのですね。
そんなに大変な作業なら、マルチタスクなんでできないように、脳が指令を出してくれればいいのに、と思いますよね。
しかし、マルチタスクを行うと、脳は快楽のホルモンであるドーパミンを分泌すると言われています。
つまり、脳はもっとマルチタスクをやれと言ってくるわけです。
これも、太古の昔の記憶からきているようで、過酷な環境の中での生活ではいろんなところから情報を得ることが、命を守る一つの手段だったわけです。
草むらが少しカサっと音がした、というような状況でも適切な判断ができるように発達した機能なのでしょう。
しかしながら、スマホはそのマルチタスクを常に行うような状況になる方が多いため、脳が疲弊してしまう可能性があるのです。
祖先から受け継いでいる私たちの身体は、スマホには適応するようにはなっていないようですね。
電源を切っていても影響あり
スマホの電源を切ってポケットなどに入れていても、私たちの注意力をしっかりと乱してくれるようです。
スマホが身近にあると、電源を切っていたとしても、何か通知が来ていないか気になりませんか?
しかし、スマホを使ってはいけない、という思いから自分を自制するようにする。
そんな状況を思い浮かべると、確実に集中力は乱されているのは簡単にイメージできると思います。
甘いものが好きな人に、おいしいケーキを目の前に置いて、「食べちゃダメ」と言って仕事や勉強をさせるようなものです。
拷問になってしまうかもしれませんが、そんな状況をスマホが作り出してしまうことになるのですね。
弊害を減らすために
弊害を減らすためには、やはりスマホの使用時間を減らすしかありません。
一日にスマホを使うのは1時間と決めたり、SNSの確認は何時と決めてしまったりするということですね。
そして、1日に電源を2時間切るということも有効になるようです。
まとめ
スマホの歴史は非常に短いので、私たちにどのような影響を与えるのかは、まだ不十分なようです。
しかし、悪影響があることは確実ですので、使用時間を減らす努力が必要になります。
また本書では、運動を行うことで、集中力を回復させる方法などが紹介されていますので、どうも集中力が続かない、という感覚があるような場合は、本書を参考にされるとよいのではないかと思います。