「レッドチーム思考 組織の中に「最後の反対者」を飼う」(ミカ・ゼンコ 著)を読んだ感想
レッドチームとは?
レッドチームというのは、あまり聞きなれない言葉ですが、なんとなくかっこいいイメージがありますね。
レッドチームは、ある組織の効率性を改善するように挑む独立したグループのことです。
そして、対象組織に敵対した役割あるいは視点を持つことを前提としているグループになります。
あえて敵対的な働きをすることで、組織の改善点や弱点などを浮き彫りにして、それらを改善するために活動します。
組織は、弱点など指摘されなくても自分の弱点はよくわかっている、と考える方も多いのかもしれませんが、組織は存続の危機になるまで、弱点に気が付かないことが多々ああります。
組織の弱点は無視される傾向にあるというのは、実際の例を見てみてもよくわかると思います。
大企業が、いつまでも同じような経営を続けているために、海外のライバルにいつの間にか差をつけられてしまっていて、経営の危機に陥るという例は誰でも一つか二つは思い浮かぶと思います。
組織の弱点、改善点を見つけて素早く対処できていれば、そのような事態に陥ることもなかったのかもしれませんが、それができないのは、やはり弱点、改善点を無視していると思わざる負えません。
組織は存続の危機になぜ気が付かないのか?
組織は存続の危機になるまで、問題点に気が付かない傾向があるのは何か理由があるのでしょうか?
本書では以下のように解説されています。
組織のリーダーでも、自分の組織のもっとも明らかで危険な欠陥を見つけることができない人は驚くほど多い。それは彼らが無能だからではなく、二つの圧力が人間の思考と行動を常に縛っているからだ。
その一つは認知バイアス
・相手の感情や行為に自分を投影するミラーイメージ
・事前に知らされた情報に判断が引っ張られるアンカリング
・自分の判断や行動を肯定する情報ばかりに目が行ってしまう追認バイアス
もう一つは組織バイアス
・社員は毎日を過ごす組織の文化に縛られ、上司や職場の好みに自分を合わせがち
(18ページ)
組織の内部にいて、組織のことを熟知している場合は、たとえ弱点があったとしても、その状況が一番良いのだ、と自分に言い聞かせてしまう傾向は確かにありますね。
また、出世、昇進したいという場合は、上司の顔色を窺ったり、組織のルールを守らなければならないことが多く、これも弱点を無視する結果につながることは大いにありそうですよね。
本当に競争の激しい環境では、いくら完璧な計画やセキュリティ体制があっても、必ず欠陥や弱点が生まれる。しかし組織内部の人たちは、それを発見できないか、組織の圧力やバイアスからは決して逃れられず、欠陥を報告できない。
(66ページ)
また、長年そこで務めているような状況では、その状況に慣れてしまって、物事を客観的に見ることができない、ということもあります。
そのために必要になるのが、本書に書かれているレッドチームであり、レッドチーム思考になります。
レッドチームの働き
組織は問題点に驚くほど盲目的なのですが、それを改善するためにレッドチームが必要というのはわかると思います。
では、レッドチームはどのような意識をもって機能するべきなのでしょうか?
なんと、レッドチームは本気でその組織をつぶしてしまう意図をもって機能する必要があるとされています。
それは過激すぎるのでは、と思うかもしれませんが、極端な話をすればライバル組織はその組織をつぶそうとしているわけですから、それに対抗するための改善点をあぶりだす、ということがレッドチームの目的です。
ですから、組織に手心を加えていては本来の目的が果たせないわけですね。
レッドチームは、組織の中で必要な情報にアクセスし、出した結果に耳を傾けてもらえるような存在にならなければいけない一方で、その組織から独立して、正直に疑問をぶつけ、厳しく対峙することも必要になる。
(28ページ)
組織の情報にアクセスできなければ、組織の問題点を明らかにすることもできませんので当然ですし、その組織から独立しているからこそ、正直な意見を言うことができるというのも担保される必要があります。
そうでなければ、そのような活動を行おうとしても、誰も耳を貸しませんし、結果として組織の改善にはつながらないわけです。
組織の中にいてはできない活動をレッドチームがしっかりと行える環境を作ることが重要なのです。
リーダーが反対意見や型にはまらない考えを排除すると、破滅につながる環境が作られる。レッドチームは、そうした将来の大惨事を予想し、回避するための手段なのだ。
(37ページ)
レッドチームは組織のために機能する
レッドチームは組織の問題点をあぶり出すような働きをするわけですが、当然その活動は組織の利益となるようにしなければなりません。
レッドチームの活動は、組織や個人を辱めたり、貶めたりするような「揚げ足取り」になってはいけない。
(51ページ)
組織を改善するためにレッドチームは存在するのですから、これは当然ですよね。
また、レッドチームの活動は、組織のプロジェクトなどの早い段階から関わっていく必要があるとされています。
早い段階で関わることで、問題のあぶり出しが早期に行えるため、より効果的に改善することができるのですね。
そして、レッドチームの調査報告についても重要な要件があります。
- レッドチームが報告する相手は、違いを生み出せるような高い地位に立つ人間でなければならない。
- 最終プロダクトの質が何よりも大切だ。
- タイミングが遅いと役に立たない。
組織の改善を断行できるような人に、レッドチームの報告が届かなければ何の意味もないのは当然です。
せっかく問題点がわかったにも関わらず、それを改善する権限がない人に報告しても改善は起こりませんからね。
そして、改善によって何を得られるかということも、明確になっている必要がありますし、改善できない段階で報告されても、これまた役に立ちません。
ですから、レッドチームはその業務の重要性を認識して、しかるべきタイミングで最適な人にその報告を上げるということを徹底して行う必要があるのですね。
個人情報などを扱う場合
レッドチームが機能しなければならない組織は、限定することはできないわけですが、よりその存在が重要な組織というのはあるように感じます。
それは個人情報を日常的に扱うような組織です。
個人情報はますます重要なものとして扱われるようになってきており、万が一個人情報を漏洩させてしまうと、そのダメージは計り知れないほどになっています。
漏洩による損失は、損害賠償などはもちろんなのですが、組織の信用を傷つけてしまうことになり、将来にわたってダメージを受けることが多いです。
ですから、個人情報を扱うような企業は、レッドチームの機能によって、漏洩のリスクをゼロにしておくことが大切ですね。
まとめ
ネットのニュースなどでレッドチームというときは、赤い旗がシンボルになっている共産主義のことを指すことがありますが、本書はそれとはまったく関係ありませんでした。
レッドチームが行うべきことは、組織の問題点をあぶり出すために、組織と敵対するような役割を果たすことです。
このような発想はあまり日本の企業は取り入れていないような気がしますが、非常に有効なものだと私は考えています。
自分の弱点というのは指摘されると、気持ちが良いものではありませんが、それを直視して改善していける組織だけが生き残っていけるというのが、残酷な気もしますが真実なのですね。