「最高のパフォーマンスを出すためのシリコンバレー式 良い休息」(アレックス・スジョン-キム・パン著 野中香方子訳)の感想
休息についての考えを改める必要がある?
「シリコンバレー式よい休息」というタイトルのため、よい休息と悪い休息の2つについて書かれた本なのではないかと思って読んでみました。
シリコンバレー式ということも、興味をそそるタイトルの一部でしたので、期待をしていたのです。
もちろん、アンチエイジングや美容には、休息がとても重要な要素ですので、この本はきっと役に立つと感じました。
この本を読んで感じたことは、休息というのは積極的なものである、ということです。
現代人は良質で真剣な休息の価値を過小評価しており、それがどれほどの成果をもたらすかということもわかっていない。
6ページより引用
世間が働き過ぎを称賛するのを、逆説的ではあるが、知的怠慢とみなしている。労働時間は熱心さと生産性を簡単に測る尺度になるが、あてにならないものなのだ。
7ページより引用
休息をとることが、一般的にはあたかもさぼっているかのようにとらえられてしまうことが多いですが、休息によって得られるメリットについて理解されていないことが原因だということです。
そのため、休息によるメリットがたくさん紹介されています。
そもそも、なぜ休息をさぼっているかのように人は感じてしまうのでしょうか?
その理由は、休息をしているときには、人は活動していないと考えられているからです。
ぼーっとしているときは、確かに動いたりしていないですし、コーヒーブレイク、散歩をしているときには、人は何も生み出していないように感じてしまいます。
しかし、実際のところはどうなのでしょうか?
昔は、人の頭を輪切りにして、脳がどのように活動しているのかがわかりませんでしたが、最近の科学技術の進歩によって、脳の活動を見ることが、頭を輪切りにすることなくできるようになってきています。
fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)を使うと、モニターに脳の活動が映し出されるため、休息の状態の脳を知ることができるようになっているのです。
それによると、人の思っていた休息の状態とは違った状態が映し出されていることがわかりました。
脳の創造的な活動が止まることはなく、あなたが休んでいる時でも、脳は問題に取り組み、答えになりそうなものを調べたり、目新しいことを探したりしているということだ。
17ページより引用
見た目には休息していても、脳は全く休息することなく、身体を動かしたり仕事をしているときとは別の活動をしているということを示しています。
では、休息の時間で、全くあなたが意識していなくても、仕事や勉強に関しての問題の解決方法を探しているということは、どういう意味なのでしょうか?
脳は人が休息に入ると、デフォルトモード・ネットワーク(DMN)という状態になるとことがわかっています。
例えば読書をする場合は、いろんなことを脳は行っています。
内容を考えたり、文字を目で見たり、文章を解釈したりと、脳はたくさんの部分を活発化させています。
そして、読書をやめた瞬間、脳は休息しているのだろうと考えられていたのですが、読書をやめた瞬間に、脳の別の領域のスイッチが入ったのです。
そして、また外からの刺激に注意を向けると、休息しているときのの領域のスイッチは切れ、別の領域のスイッチが入ったのです。
この研究によって、脳は、認識の焦点を外から内へ向けたとたんに、違った領域のスイッチが入るのであり、スイッチが切れるのではないということが分かったのです。
この休息における脳の活動というのはどのような意味があるのでしょうか?
脳は休息しているときには、活動を休止しているのではなく、情報を整理したり、情報を使って解決策を探したりしている状態になっています。
この状態は極めて重要なものです。
例えば成績が優秀であったり、仕事ができるという人の場合は、このデフォルトモード・ネットワーク(DMN)の結合が比較的しっかりとしており、そうでない人は比較的緩緩やかであるということが研究で明らかにされています。
休息を上手に取れる人は、この脳の切り替えが比較的容易にできるようになっているため、情報処理を的確に行い、重要なところでしっかりとパフォーマンスができるようになるのです。
歩く
この本の中には、休息をとる方法がいくつか紹介されています。
中でも興味を引くのが「歩く」ということです。
歩くということは、アンチエイジングや美容にとっても、とても重要な要素であることは間違いありません。
原子核と素粒子の理論における業績によりノーベル物理学賞を受賞したユージン・ウィグナーは、プリンストン大学の構内を散歩しているところをよく目撃された。
「わたしは、室内に何時間かこもっていると、頭がぼんやりしてくる」と彼は言った。
「そこで散歩に出る。すると外に出たとたん、頭はのびのびと働くようになり、本能的に研究テーマのことを考え始める。悩まなくても、アイデアがあふれ出てくる。そしてじきに、無秩序に浮かんだアイデアの中に、最善の答えが見つかる。自分に何ができるのか、何をすべきなのか、何を捨て去るべきなのかがわかってくる」。
117ページより引用
歩くということは、何も考えていないかのように思ってしまいますが、実は脳の中ではかなりの活動が行われているということが、ここからわかりますね。
歩きながら偉大な発見をしたのは、ユージン・ウィグナーだけではありません。
ルービックキューブの考案者である、エルノー・ルービックは、歩きながらルービックキューブの問題点の解決法を思いついたと言われています。
他にもたくさんの逸話が紹介されているため、歩くことの重要性が伝わってきます。
まとめ
この本には、歩く以外の休息方法もたくさん解説されています。
休息というのは、さぼっているのでもなく、むしろ人のパフォーマンスを向上させるのに必要不可欠なものとして考える必要があります。
そのために、休息は与えられるものとして考えるのではなく、自分から積極的に取りに行くような感覚が必要になるでしょう。