夜中のブルーライトは美容の敵、アンチエイジングの敵
眠りのホルモン「メラトニン」を阻害する人工光
体内時計の調整にはいろいろなホルモンや神経伝達物質が関わっていますが、光との関 係で重要な役割を担うホルモンのひとつに、「メラトニン」があります。
必須アミノ酸であるトリプトファンが神経伝達物質セロトニンに合成され、そのセロト ニンが松果体でメラトニンに合成されます。
メラトニンは、周りが暗くなるころから分泌される量が増えていきます。
メラトニンは通常、夜間に合成され、(貯蔵ができないため)生成されるとすぐに放出さ れます。
メラトニンの血中濃度が高くなると、体温が下がり、眠くなります。
つまり、メラトニンが分泌されると、眠りに入る態勢が整うということです。
そのため、「睡眠ホルモン」 「眠りを促すホルモン」などと呼ばれています。
メラトニンには、光刺激によって分泌が強く抑制されるという特性があります。
朝になって光を感じると、網膜にある「メラノプシン」という受容体が「光が来たぞ、 朝だ」という信号を視交叉上核に送られます。
そして、この情報が松果体に伝達されると、メラトニンの分泌は抑制されます。
ちなみに「メラノプシン」とは1998年に新しく発見された、「視覚に関係しない光感受生受容体」のことです(いわゆる第三の光感受性受容体〉。
人間の場合は網膜に存在します。
鳥類では頭皮のすぐ下に松果体が位置するのですが、メラノプシンは松果体にも存在し、渡り鳥が渡りの時期やその方角を感知するのに働いているといわれています。
生物にとって光は思った以上に重要な役割をしているのですが、当然人間にとっても光はとても重要です。
光を感じると眠りを促すホルモンが抑制されるのですから、当然眠気は無くなります。
皆さんは経験があるでしょうか、朝ゴミを捨てに出て太陽の光を浴びると、それまでとても眠かったのですが、一気に眠気が消えていくことを。
これがメラトニンが抑制された状態なんだなと、妙に納得してしまう瞬間です。
さらに、メラトニンには眠気以外にも、とても重要な役割があります。
メラトニンの合成は明暗周期によって左右され、さらにその分泌が体内時計を調節する ため、睡眠と覚醒のリズムに影響を及ぼす非常に重要なホルモンなのです。
この明暗周期にもっとも影響を与えるのは、当然ですが太陽光ということになります。
この場合の太陽光とは、晴天かどうかといったことを指すのではありません。
昼夜の区別、朝に陽が昇り、陽が沈んだら暗くなるという変化のことです。
雨が降っていても太陽光を浴びれば、メラトニンは抑制されます。
ブルーライト
かつては、生体リズムに影響を及ぼす光とは太陽光だけだと考えられていたのですが、 いまでは、人工的な光も影響することがはっきりしています。
本来であれば強い光を浴びることのないはずの夜間に、煌々とした光を浴びる生舌は、 メラトニンの合成阻害を起こし、眠くなるべき時間になっても覚醒状態がつづいてしまい やすいのです。
それは、「寝つきが悪い」「眠りが浅い」「朝起きられない」といった睡眠のトラブルに つながります。
なかなか睡眠モードに入れないだけでなく、体内時計が「まだ昼がつづいている」と勘違いしてしまい、生体リズムが乱れます。
夜も明るい環境や、パソコン、スマホなどのディスプレイを夜遅くまで見つめる現代社会の生活パターンは、生体リズムを大きく揺るがすことになっているわけです。
ブルーライトも使い方次第
「ブルーライトを浴びるとよくない」といったことが、最近よくいわれます。
そもそもブルーライトとは何を指すのか、どうして悪者扱いされてしまったのか、そこを少し説明しておきましょう。
私たちの目に見える光の領域、可視光線は、波長の違いによって色が異なって見えま す。
ブルーライトとは、可視光線(380~780nm(ナノメートル〉)のなかでもっとも波長が短い青色系の光。
波長でいうと、380~500nmくらいを指します。
短波長は紫外線に近く、強いエネルギーをもっていて、網膜まで到達しやすい光です。
それに比べ、長波長の暖色系(黄―オレンジー赤、赤に近づくほど長波長になる)の光 は、角膜や水晶体で吸収されやすいので網膜までは達しにくいといわれています。
太陽光には、すべての波長の光がほぼ均等に含まれています。
そして当然、ブルーライトも含まれています。
蛍光灯には、寒色系の色調のものと暖色系の色調のものとがありますが、どちらにもブ ルーライトは含まれています。
しかし、太陽光や蛍光灯のブルーライトのことは、その悪影響についてあまり指摘されていませんでした。
なぜなら、ブルーライトの及ぼす影響が注目されるようになったのは、LEDが広く普及して以降のことです。
LEDは、太陽光や蛍光灯のように幅広い波長の光の組み合わせではなく、ブルーライ ト領域の光の比率が非常に高いのです。
経済効率がいいということで、LEDは急速に広まりました。
LED照明やテレビの夏晶モニタ、パソコンのモニタ、携帯ゲーム機やスマホなど、私たちの生活に一気に浸透しました。
そこにブルーライトが多く含まれていて、その光が身体のリズムに少なからず影響する ようだということが、後になってわかってきたわけです。
実際、夜間にブルーライトを大量に浴びていると、メラノプシンを刺激して、メラトニ ンの合成、分泌を阻害してしまいやすいことは明らかになっています。
「夜遅くまでスマホをいじっていると、眠れなくなる」のは、こうした理由からです。
ただ、これは単にブルーライトの影響だけとはいいきれません。
夜遅くまでデジタル機器を操作していることで、視覚と脳が活動しつづけ、脳の過緊張状態がほぐれない、といった理由もあります。
私は、その効果を踏まえて使用すれば、ブルーライトはけっして悪いものではないと思っています。
光を谷びる時間、波長、照度などが生体リズムに影響を与えますが、なかでももっとも 大切なのは、浴びる時間、タイミングです。
光を浴びる時間によって、概日リズムが後ろにずれたり、前にずれたり変化します。
これを「フェーズ・レスポンス・カーブ(Phaseresponse curve)」と呼びます。
ブルーライトは、日中浴びると覚醒度を上げます。
朝日を浴びることがいいのは、体内時計をリセットできるだけでなく、覚醒しやすくな るからです。
それは太陽光のなかのブルーライトの効果です。
また、昼間の時間に過ごしている環境が日光を浴びにくいような場合、ブルーライトを 含んだ領域の光を浴びると、覚醒効果があります。
時差ぼけのときの調整に利用することもできます。
ブルーライトは、浴びるタイミングを考慮することで、乱れたリズムを調節するのに役
立てられるのです。
むやみに悪者扱いしてはいけません。
まとめ
ブルーライトも使い方を工夫することで、睡眠を害することは最小限にすることができます。
寝る前にブルーライトを見るということは、やはり眠りに悪影響があります。
眠る前に、スマホなどを見ていると、闇の中にいるべき時間に、目が不自然な光にさらされるわけです。
ブルーライトはメラトニンを抑制する光であることを、しっかりと理解しておく必要があります。
メラトニンを分泌すべき時間に抑制されるのですから、やはり自律神経が乱れてしまう可能性があります。
当然次の日のパフォーマンスは、最高のものにならないでしょう。
そして、さらにアンチエイジングや美容にも、夜中のブルーライトは悪影響があるようです。
視神経を取り囲むようにして、自律神経をつかさどる視床下部とホルモンの中枢司令塔である脳下垂体があるからです。
視神経から不自然な光が入ってくることによって、この部分にも刺激があるため、男として、女としての魅力が減衰する可能性があるのです。
少なくとも寝る1時間前からは、ブルーライトを発するものを見ないという工夫が必要かもしれません。